
日々邦楽 第18回
色の話いろいろ
海外のアニメ祭りや日本祭りで日本の神社の鳥居を描いた絵やオブジェが展示されたり巫女さんコスプレを拝見するようになりました。
そしてあるある。なーんか違うW。
これは赤の色の具合のせいだと思っています。
神社の鳥居は丹塗りとか朱塗りといって、硫化水銀に由来する辰砂の黄色味のある赤。巫女袴は緋袴ともいうので茜の根で染めた緋色に由来する黄色味のある赤。
手に入りやすい安い塗料や染料を使うと黄色味が少ない赤になってしまうのですね、、、日本の赤は、赤系、朱系、緋系、丹系、紅系と蘇芳、薔薇色、臙脂(えんじ)、茜色、苺色、真赭(まそお)など原料名に由来する色名があり、本当に情緒豊かです。
長唄や箏の舞台では緋毛氈というフェルトのような敷物をひいて金屏風。暗い、渋い、さみしい題材の曲の時は紺色の毛氈に鳥の子紙の屏風となります。
「色」がついた長唄の曲に『秋の色種(あきのいろくさ)』があります。この「色」は「いろいろな」の意味と「色恋」をかけていて、現代風に訳すると「秋のいろいろな草花と虫と恋バナのこと」ってなるかしら。意訳しすぎかW
2023年5月3日

日々邦楽 第17回
江ノ島は箏の島!?
鎌倉、江ノ島は日本三代弁財天で有名な島(今は橋でつながってます)。幼稚園の遠足の時に海岸で穴を掘り続けてそのまま水没しそうになった記憶がございます。これを墓穴と、、、
さて、江ノ島奥の院付近には箏曲山田流の開祖、山田検校さんの銅像が設置されております。先日国立大劇場で行われた山田流箏曲協会創立100周年記念では江ノ島神社の宮司様による祭事や銅像の元となった石膏像の公開やご流儀の方々による第合奏での「江ノ島」が演奏されたりと盛大でございました。
箏曲は元々は関西でさかんでした(八ツ橋のお菓子で有名な箏曲の開祖八橋検校も京都の方)山田検校は歌舞伎など唄が好きな江戸っ子の好みに合う箏曲を作ろうと考えて、唄中心の曲を次々と発表します。ちなみこの方は若くして失明されていますが、学者さんたちとの親交が深かったようです。自分で長い文献を読むよりも、友達が魅力的に紹介する物語ダイジェストの方が想像力が高まったりしますよね。
源氏物語や平家物語、中国の故事に由来したストーリー性溢れる作品が後世もさかんに演奏されています。「江ノ島」は山田検校(1757-1817)が滞在した江ノ島の情景を歌い込んだものです。この歌詞と能楽の「江島」(欽明天皇の御代に海から島が現れて、そこの悪い龍神と弁財天が夫婦になっておちついたという話)を1835年に四世杵屋六三郎ががっちんこして「長唄・江ノ島」が作曲されました。ちなみ日本舞踊作品としても有名な「江島生島」は1714年頃の大奥のスキャンダルを題材にした別のお話。
山田検校の銅像は小山のような江ノ島の一番奥にありますから、辿り着くまでに階段を登ったり降りたり大変なのですが、一番最初の社から右に伸びた坂道がございまして、そこを登るとかなり近道だったりします。
ただ、宗像三女神のお社も魅力ですし、有料のエスカレーター(登り専用)もありますから、行きはがんばって階段を登って海の三女神と弁財天のお社を全部お参りして、銅像もみて、帰り道は奥津宮近くの海が見えるクレープ屋さんのテラスで生ビールを傾けて、おまんじゅう屋さんの手前を左にまがって近道して辺津宮までしゃっと降りるのがおすすめです。
急勾配が続くので歩きやすい靴でお越しくださいませー。
2023年4月30日

日々邦楽 第16回
蘭陵王のこと
蘭陵王(らんりょうおう)という曲は、一人で舞う雅楽の名曲です。
1500年ほど前(西暦555年頃)の支那大陸は南北朝時代という戦乱の世です。北斉の国の王子である蘭陵王長恭は才知武勇なイケメン。兵たちは彼の姿をみようとして戦に集中しないwので、厳しいお面を被って戦ったところ大勝利したという故事をもとに作られた舞曲です。
チイイイヒーチイヒーと鳥のように人差し指をくるくる回す手が多用されていて、かっこいいですが難しい曲の一つです。
10年ほど前になりますが、蘭陵王のイケメン具合を再現したくて、モデルもやっている友人を舞人に抜擢したことがあります。180センチくらいで長身細身の美女でしたから1970年代の少女漫画の世界から抜けでたような異様の蘭陵王。圧巻でした。どのジャンルにおいても舞人という方々はやはり心身ともに美しくないとね。なーーんて、ダイエットしよかなあ、、、
2023年4月29日

日々邦楽 第15回
コッペパン
最近ブームが再来しているコッペパン。
丸々していて見ているだけで幸せな気持ちになりますね。
歌舞伎座地下2階 食品雑貨「はなみち」ではコッペパンサンドウィッチが販売されていてとても美味しいのでおすすめです。
さて、このコッペパンですが、どうやら日本発のパンのようです。
戦時中の配給や戦後の給食で全国的に普及したそうで、名前の由来はクーポンパンともフランス人のシェフあるいは似た形のパンを指す言葉とも言われていますが、ボールペンのように和製のカタカナ語なのだそうです。
明治期に西洋人からパンの作り方が伝えられると、当時の日本人の職人魂が炸裂!あんぱんやドライイースト、国産イーストの開発と次々開発されたそうです。
私はドトールとのコラボをしている写真のお店が大好き。
何かご褒美したい時はここでこっそりパンと生クリームとコーヒーを頬張っています。
2022年12月29日

日々邦楽 第14回
花火のこと
数年ぶりの花火大会が再開して楽しみな夏になりました。
打ち上げ花火は日本特有という気がしてしまいますが、実は観賞用の花火はイタリア発とも言われているようで、日本では宣教師が往来した戦国時代頃から記録があり、徳川家康や伊達政宗も花火を楽しんでいたようです。日本の花火は球型、ヨーロッパの花火は筒型なので、大輪の花のような大きな花火の製造技術は日本が世界で一番のよう。誇らしいことです。江戸時代の人々は花火が大好きだったようで、『東都歳時記』には「5月28日、両国橋の夕涼み、今日より始まり、8月28日に終る。竝に茶店、看せ物、夜店の始にして、今夜より花火をともす。逐夜貴賎群集す」とその風情が記録されています。
しかし、火事になることも多かったので何度も禁止のお触れが出され、隅田川での花火のみを許可したことから現在でも有名な隅田川花火大会は実施されているとのこと。写真は上田の花火です。信州の花火は空気が澄んで、山に囲まれているのでドーンという音がとても美しく響きます。
2022年8月23日

日々邦楽 第13回
黒御簾のこと
歌舞伎や日本舞踊公演、時に新舞踊公演などを見ると、舞台の下手側に黒い格子窓のついた板があり、そこから太鼓や笛や鉦やいろんな音が聞こえてくることがあると思います。これは江戸時代に考案された、バレエ音楽などで言うところのオケボックスに相当するもので、数名の奏者が舞台の状況に合わせて効果音などを演奏する場所になっています。写真は国立大劇場のもので、大太鼓や鐘は常時設置されているようです。今はなき堅田喜三久先生のご用事で見学させていただいた時、舞踊家や演出家や演奏家やいろいろな人が訪れると演奏中でも先生は談笑しているので、大丈夫かなあとヒヤヒヤしたのですが、そこはさすが人間国宝。ばっちり計算していて一つもミスなく適切な音を演奏されていてびっくりしました。前方が窓になっていて舞台の様子が覗ける仕組みになっています。
2022年5月19日

日々邦楽 第12回
湯島天神と和太鼓のこと
法被を着て、ねじり鉢巻をして、威勢よく打つ太鼓。かっこいいですねー。
音楽やエンタメとしての和太鼓は半世紀くらい前から形が出来てきたので、日本の伝統芸能の中では一番若い部類に入ります。だから元気いっぱいなのかもしれません。
東京で活動する有名な太鼓団体に「助六太鼓」があります。
助六流打法と名付けた独特な斜め打ちのスタイルや、ぐるぐる人が回る四段打という技法はみていてとても華やかです。
この和太鼓が生まれたのが湯島天神境内。東京藝術大学も近くにありますから、
戦後なんとか存続できた同大学邦楽科の学生たちも参加していたようで、助六太鼓の代表演目である「白梅太鼓」や「祭り太鼓」を聴くと、当時、長唄の修練に打ち込んでいた学生たちの青春の賑わいが想像されます。
2022年4月30日

日々邦楽 第11回
キャベツと歌舞伎
一番好きな野菜は、「キャベツ」です。
もはや丸ごとかぶりつけるくらいの勢い。
※最近、自然派やら武闘派やらと誤解されてますので手作りサンドウィッチ写真でイメージ改善を図ってみました(笑)
さて、私の愛するキャベツ様は、古代ギリシャ時代から人に食されてきた最古の野菜だそうで日本に伝来したのはオランダ人により江戸期とのこと。1709年頃に出版された「大和本草」によると「オランダナ」として観賞用で広まったそうで、やがて「葉牡丹」という品種が作られます。この葉牡丹に縁あるのが江戸一の色男「花川戸助六」君であります。
長唄や市川家歌舞伎十八番で有名なこのイケメンさんは「杏葉牡丹の加賀紋付けたる黒羽二重に紅の裾廻し」と背中にキャベツがドッカーンと描かれた衣装を背負って登場するのであります。
今月26日に国立大劇場で共演させていただく助六太鼓さんの名称は「助六由縁江戸桜」が由来とのことで、キャベツ愛は「粋」に通じるのかしら。
2022年4月17日

日々邦楽 第10回
民謡と演歌の違い
最近はプロアマ問わず、歌の上手な方が多いですよね。
声がとてもしっかりしているなーなんて方は小さい頃に民謡を歌ってましたーなんてお話も結構耳にします。さて、民謡というのは「炭坑節」「最上川舟唄」とかその地域に伝わる作者不詳の古い歌を指すことが多く、じゃあ例えば「東京音頭」は民謡か?っというとどうかなーとなります。でも世間的には民謡歌手、演歌歌手の方がよく歌うので民謡カテゴリーで解釈されることが一般的かもしれませんね。
歌い方という点では、民謡っぽい歌い方は高い音を鼻にかけて斜め上に引き戻すように歌われている印象があるので、斜め前方とか上に歌う西洋的な歌唱法とは違いますね。こっちの方が喉を痛めることがなく、ニュアンスも自在につけられそうです。
歌詞について考えますと、旅の安全を祈るとか、日々の労働や営みを歌で弾みをつける感じの歌詞が民謡で、男女の色恋を描く詩が多いのが演歌、、、そうするとヨイトマケの唄はどっち?、、、文化というのは白黒つくものではないということで!
2022年4月16日

日々邦楽 第9回
打ち合わせの語源
今日は「打ち合わせ」ってよく言いますよね。
会議ということなんですが、なんで打ち合わせって言うんでしょう。これはおそらく音楽用語が語源ではないかと思います。
歌舞伎囃子のお稽古をするときに、大皷と小鼓はセットでリズムを担うことが多いのですが、それを大小打合と記載します。
相手の音やリズムに呼応して前に進んでいきます。
それが複数の人が膝を突き合わせて相談している様になったのではないかなと。
2022年4月15日

日々邦楽 第8回
私の笛の出身地
笛ってどこで売ってるんですか?
と時折聞かれます。
京都や浅草、広島や青森や、蒲田とか、いろーーーんなところで売ってます。
AMAZONでも売ってます。その話はまたいずれということで
私が昔からお世話になっているのは千葉県成東市の蘭情師です。
この方のお笛は裏側に十干干支などが記されていていつ、どんな技術で作ったかがトレーサビリティできるようになっています。
笛のメンテナンスや購入でお伺いする度に進化した笛をご紹介いただいて、本当に勉強になります。今では十干干支の改良も超えて、「蘭照」という銘柄のお笛になっています。
2022年4月8日

日々邦楽 第7回
江戸時代の椿
梅が香り、桜が咲いて、春爛漫ですね。コロナ禍で宴会はできませんが、美しい花を今年もたくさん見ることができました。そしてクリスマス頃からずっと街を彩っているのが「椿」です。木ヘンに春と書いて「私は春の花ですよ」と強めに主張しているにも関わらず、花の少ない時期に「寒椿」があるせいで、なんとなく冬の花かしらと考えてしまいます。江戸時代の音楽ではどのように記録されているでしょうか。1792年に初演された「長唄・手習子」は、とある春の1日に寺子屋という当時の学習塾から帰る娘さんが道草をしている様子を描いています。曲の最後の歌詞が「鳥の囀り、梢々の枝にうつりて風に翼のひらひらひら、梅と椿の花笠着せて着せて、眺めつきせぬ春景色」となり、今も昔も変わらずに梅も桜も椿も春を彩っていたことがわかります。
2022年4月7日

日々邦楽 第6回
海で笛を吹くのは
海岸で「○✖️さんのことが好きでしたあああああん」とか叫んだ青春をお持ち方もいらっしゃるかと思います。「海岸」は笛を吹くのに最適なのか!?ということでございますが、修行には最適、演奏会には微妙というのが回答でございます。だって風強いんだもん。強い音を鍛えるために大きく吹く練習にはなりますね。
写真は三浦半島でアートにエールを撮影を仲間とやった時のもの
風が強くで音どころか笛が飛んでいきそうでした、、、
2022年4月6日

日々邦楽 第5回
都風流と富士山のこと
富士山って本当に素敵なお山ですね。東海道新幹線や飛行機から富士山が見えた時のテンション、見晴らしのいい高台や山やビルに登った時はついついお姿を探してしまいます。江戸時代の人々も同様で、富士講といって富士山に登るためにみんなでお金を貯めたり、寺社仏閣の敷地内に富士山に見立てた小山を作り、陰暦6月にみんなで詣でるというイベントをやっていたようです。写真は東京護国寺境内の富士塚です。山頂にはちゃんと富士浅間神社が祭ってあります。私は国学院大学の試験でこの富士浅間神社の神様を答える問題が出て、それだけが解けなくて悔しかった歴女でございました。。
長唄「都風流」は1947年に作曲されました。戦後、急速に発展する東京からどんどん消えていく江戸の風流を描いています。冒頭が「これよりして お馬返しや羽織不二 ふじといえばつくばねの 川上さしてゆく舟や 芦間がくれにおもしろき」とあり、初夏の富士詣の賑わいが偲ばれます。
2022年4月5日

日々邦楽 第4回
和太鼓とお酒のこと
日本の伝統音楽やってます=日本酒好きそう
みたいなイメージがあるとよく言われます。ええ。日本酒大好きです。というか酒全般か、、、
日本の銘柄数は1万を超えるようで、名前がなんとも面白いですよね。
その中で太鼓って書いてあるお酒はあるかなーと調べたらあるわあるわ。
そして偶然にそのお名前で活動されている団体もあったりするのです。
「蔵太鼓」という福島県は喜多方の日本酒がありますが、これと同じ太鼓団体がありまして、なんと税務署職員で構成されていたりします。
財務省はかつては大蔵省って言いましたからね。
私も昔、共演させていただいことがあり、確定申告の季節にはみなさんのことをいつも思い出します。
漏れなくお酒が大好きな先生方でした(笑)
2022年4月4日

日々邦楽 第3回
鼓の紐は麻
歌舞伎やお能で利用する太鼓や小鼓、大鼓にグルングルン巻いてある赤い紐。
これは麻でできています。浅草のお店に買いに行きますと、
普通 とか とびきり とか 特上 とか選べます。
高い方が上質とされます。その基準は紐を作る際に用いる麻の長さが長い方が、凸凹が少なくて太鼓の皮を柔軟に動かすので良いそうです。
古来より日本では麻を着物に利用していました。木綿が流通したのは室町時代以降です。舟の帆が木綿で作られるようになってから、速度や方向変換が自在になったそう。古代の神様への捧げ物リストに「木綿ゆう」がありますが、これは当時の技術で出来るだけ精製した麻による布のことを意味します。
2022年4月3日

日々邦楽 第2回
国立大劇場七不思議(楽屋にお風呂編)
国立大劇場には銭湯がある!と風の噂がありまして、
確かにお風呂って書いてある引き戸はございますので、
この間の日本舞踊の会の時に突撃してみました!
わあ。本当に湯船にお湯が張ってある!!!!
歌舞伎や日本舞踊では顔だけでなく手足や首や背中まで白塗りするし、汗だくにもなるので、いつでも入れるように準備されているのでしょう。
温泉ではありませんがなかなかのお湯加減です。
2022年4月2日

日々邦楽 第1回
笛は桜でできている!?
平安時代の貴族たちが楽しんだ「雅楽」の横笛は、一番有名な龍笛の他に高麗笛と龍笛と神楽笛の3種類があります。一番長いのが神楽笛、短いのが高麗笛です。
神楽笛は宮中御神楽など日本由来の曲を演奏する楽器、高麗笛は朝鮮半島から伝わった高麗楽を、龍笛は中国大陸から伝わった唐楽(越天楽はここに含まれます)を演奏する時に使います。
材質は煤竹という燻した竹に歌口と指穴を開けて、頭を鉛と蜜蝋で塞ぎ、装飾と割れを防ぐためにカバザクラの樹皮を細く切ったものをぐるぐる巻いて、菅の中を赤い漆、外側を主に黒い漆で塗って仕上げます。
雅楽というとなんとなーく桜っぽいなーというイメージは楽器の素材から感じられるのかもしれませんね。
2022年4月1日